7月のある日、東京郊外の新興住宅地に暮らす主婦の矢野絵里子(檀れい)は、幼稚園に通う息子・駿(青山和也)が家からいなくなっていることに気づく。まもなく、貯水池で男の子の水死体が見つかったと警察から連絡が入った。駿に違いないとがく然とする絵里子は、単身赴任先の大阪から駆けつけた夫・慎二(渡部篤郎)の胸で泣き崩れる。だが、遺体は駿ではなかった。駿は木に登って下りられなくなっていたところを理生(南圭介)という青年に助けられ、保護されていたのだ。
1年後、絵里子は平和な日常を取り戻していた。慎二は未だ単身赴任中だが、隣の家に住む関加奈(鈴木砂羽)と夫の彰宏(小林正寛)、同じ町で喫茶店を営むママ友の相田真由美(三浦理恵子)と夫の和史(森山栄治)とは家族ぐるみの付き合いで、幼い駿を抱えて夫の留守を守る絵里子の心の支えになっていた。
そんな折、加奈夫婦が大阪に転居することになった。住宅地とはいえこの町にはまだ家もまばらで、絵里子の家の近くにあるのは並んで建つ隣家だけだ。空き家になった隣の家に不安を覚える絵里子は、いっそ慎二のいる大阪に越そうと隣町に住む慎二の両親、美津子(草笛光子)と敏郎(左右田一平)に相談を始める。
そんなある日、見慣れない女(仲間由紀恵)が町に現れ、通りかかった理生にぶっきらぼうに道をたずねる。暗い目をした女の顔を、ある思いを巡らせながらじっと見つめる理生。
数日後、絵里子の隣の家に新しい住人が入居した。それは理生に道を聞いた女だった。女は沙希と名乗り、アメリカ人の夫が仕事の都合で母国を離れられず、ひとりで暮らしているという。理生の前に現れたときとは別人のように明るく、人懐こい沙希に好感を持つ絵里子。
そんなある夜、絵里子の家が突然の停電に見舞われる。不審に思って家の外に出てみた絵里子に沙希が声をかけてきた。沙希の家もやはり停電なのだと聞き、絵里子は沙希を家に招き入れる。ろうそくの灯りの中で、沙希は海外で見たというホタルの舞う幻想的な風景のことを語り始める。その話にすっかり引き込まれ、沙希と打ち解けていく絵里子。
翌日の夜、大阪の慎二はひとりで馴染みのバーを訪れる。店には先客の見知らぬ女性がいた。カウンター席に隣合わせに座ることになった女性と軽い会釈を交わす慎二。その女性は沙希だった…。
数日後、美津子が体調を崩し、急遽入院することになった。入院の準備などで病院を出られなくなり、駿を幼稚園に迎えに行けなくなった絵里子は、沙希に駿の世話を頼む。まもなく幼稚園に向かい、駿を連れ帰る沙希。その姿を目にした真由美は、親しい自分を差し置いて見慣れない女性に駿を託した絵里子にいら立ちを覚える。
自宅までの帰り道、沙希を避けるような態度を見せ、固い表情のまま歩いて行く駿。そんな中、沙希が突然家とは違う方向に進み出し、不安がる駿を1年前に下りられなくなった巨木の前に連れて行く。一緒に木に登ろうと言い出す沙希。行方不明騒動以来、絵里子に木登りを禁じられている駿は固く拒むが、沙希の誘いに負けてついに上ってしまう。沙希は「2人だけの秘密にしようね」とささやくと、街の風景を夢中になって眺めている駿の背中を無表情に見つめ…。
休日、入院した美津子を見舞おうと慎二が上京した。絵里子は慎二を沙希に会わせようと隣家を訪ねるが、中から応答がない。留守なのかとあきらめて自宅に戻る絵里子ら。だが、沙希は家の中にいた。2人の訪問に無視を決め込み、絵里子からもらった菓子折りと庭で拾った駿のおもちゃをゴミ箱に投げつける沙希。
そして数日後の夜、大阪の馴染みのバーに顔を出した慎二の前に、再び沙希が現れた…。
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